『生きること学ぶこと』広中平祐(著)
書評
執筆責任者:chiffon cake
本書の趣旨は、なぜ勉強するのかという若者の問いかけに対する数学者の回答である。まず、生きることで最も価値あることは創造である。そして創造するには学びがいる。というよりも、人は生きている間たえず学んでいる。学びの大切な側面として知恵を身につけることができる点がある。学んだ知識は忘れてしまうのになぜ勉強をするのかという疑問に対しては、知識は忘れても知恵は無くならないものだから、そして知恵が人生でどこか遭遇する危機に対処すべき方法を与えてくれるから学びは必要である。これだけでも冒頭の疑問は解決するが、筆者は何よりも創造の大切さを強調する。人生を振り返って創造する理由と喜びを説こうとする。本書は数学者の人生談でもある。広中氏の語りに耳を傾ける意味について私の考えを書く。偉大な数学者でも、少なくとも人生の知恵に関しては凡人の私なんぞと共通する部分が多かった。スケールの問題こそあれ、人間であれば大なり小なり共感できる言い分が散らばっている。ただし、私だったら証明は諦めてしまっていただろう。数学ができないのもあるが、決定的要因は彼の人生だからできたからである。彼の人生がまるで全てが予定されていたかのように定理の証明を向かったと文中で述べられている。本書を読んで一番良かった点はここである。それまでの人生における成功や失敗、他者による影響をもひっくるめた全てが学びとなり、次第に形成される当人の内なる熱意に導かれて一つの創造へ向かっていく。まさにここが重要である。数学者だから成り立つのだと言う意見もある。だが一芸は道に通ずという諺があるように、ひとつのモノを極めようとする人間の方が、人生の本領に近づきやすいと私は考えている。何より広中氏の考えは素敵だ。時間をかけた勉強が無駄だったと考えるよりも、無駄な学びなんてなかったと考える方が救われる。
(773文字)
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