『ケーキの切れない非行少年たち』宮口幸治 (著)
書評
執筆責任者:コバ
「ケーキの切れない非行少年たち」このタイトルを聞いて皆さんはどんな印象を持つだろうか。本書は2019年から出版されており、私も数年前から本書の存在は知っていた。「ケーキが切れない」というのはホールケーキを三等分できないということなのだが、私は初めてこの本と出会った時「ケーキが切れない?どういう意味だ?」と何か自分の理解できないものに出会った時に感じる、恐怖に似たような感覚を覚えた。そこからなぜ今になって本書を読もうと思ったのか。それはこのジェイラボの基礎教養部の活動の影響が大きい。当時の私は本書を自分の理解不能なモノとして恐怖に似たような感覚を覚えていたが、そもそも「他者」とは自分にとっては突き詰めると理解不能な存在だろう。その理解不能な他者とコミュニケーションを交わしながら一緒に書評を作っていく、この活動の中で自分自身も変わったのだろう。本書は筆者の医療少年院での勤務経験をもとに書かれている。実際に医療少年院の少年達と向き合ってきた経験の中で筆者が見た非行少年達の実態、それは私含めた一般の人々がぼんやり持っている「非行少年」のイメージとは大きく異なる。我々は日頃、自分自身の認知を疑ったりは普通しない。その自分の認知の基準に照らし合わせて他人の行いも解釈する。ニュースで流れる凄惨な事件を目にした時「なんでそんなことをするのか、信じられない」と私たちは感じる。しかしその現象だけを自分達の認知に照らし合わせて解釈するだけでは問題の根っこには辿り着けない、そのことを本書は示唆してくれている。私がジェライボ基礎教養部の活動がきっかけで本書を手に取ったように、あなたがこの書評を読んでくれたことがきっかけで本書を手に取る機会を得てくれたのであれば、これほど嬉しいことはない。
(743文字)
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