『嫉妬論』山本 圭 (著)
書評
執筆責任者:Tsubo
嫉妬.それは古今東西あらゆる場面の中で扱われてきた感情であるし,また様々な感情の中で最も忌避される感情であるかもしれない.例えば,誰かに嫉妬していると公言することは少なくとも今日においては憚れる行為であるし,また何かに嫉妬しているという状況を直視すること自体に苦痛を伴うことが多い.故に,この嫉妬という感情はその登場頻度の多さと反比例して,真正面から学術的に扱われることは少なかった.この「嫉妬論-民主社会に渦巻く情念を解剖する」という本は,嫉妬についてその歴史,または政治や社会にて登場する嫉妬が登場し,影響を及ぼしうる場面について体系的に扱った,貴重とも言える新書である.例えば,嫉妬という感情を扱った例はプラトンやアリストテレスなど古代ギリシアまでに遡りうると指摘し,カント,ベーコン,またはロールズなど実は現代に至るまで連綿と議論され続けてきたということが紹介される.これらの内容から,今まで直視を避けその理解が曖昧なものとなりがちであった嫉妬という感情について,多少なりとも了解が進むであろう.例えば,「大谷翔平や藤井聡太など,自分とはかけ離れた存在には全く嫉妬心を抱かないが,成功を収めた友人や同僚など,自分とは身近な存在にこそ嫉妬心を抱く」という記述にははたと膝をうつ人も多いであろう.そう,自分と比較可能な存在だからこそ嫉妬心を抱くのであり,つまりは「比較する」という行為こそが嫉妬という感情の基底にあるということが示される.ただ,本書では嫉妬について扱った自己啓発本にあるように,他者との比較をやめることによって嫉妬から解放されよう,という安易な対処法は述べられていない.むしろ,示されるのは嫉妬という感情がいかに私たちと深く根付いているかである.ただ,嫉妬心を理解し,幾分か心を楽にさせる書籍ではあるかもしれない.
(767文字)
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