「モディ化」するインド

『「モディ化」するインド』湊一樹 (著)

書評
執筆責任者:Tsubo
人口にして中国を抜き世界一位,ドル建ての経済規模でも日本に肉薄しつつある,インドという国家は言うまでもなく今後の国際社会を考察する上において最も重要な国家の一つであろう.この巨大な国家であるインドは,日本などと同じく選挙を中心とした民主主義的な政治体制を取っている.その姿勢はある意味徹底しており,どんな山奥に居住している有権者のもとにでも選管が票を回収しに訪れるそうだ.14億という膨大な人口を持つインドは,有権者登録者数だけでも9億人ほどいるとされており,そのような状況のもとで選挙制度を維持している努力の大きさは想像するに余りある.また,同じく民主主義という体制-基本的価値観を共有している以上,主に中華人民共和国との対抗を意識して日本国政府はインドとの協力関係を維持・強化している.「QUAD」という日本,米国,インド,オーストラリアにおける多国家間協力関係を耳にしたことはあるだろう.さて,この「モディ化するインド」であるが,要するにインドにおける民主主義的政治体制が,モディ首相の執る政策や姿勢によって揺らいでいるという指摘を主に扱った書籍である.例えば,メディアを支配してモディ氏に有利な情報を流していることや,またインド国内にて多数派であるヒンドゥー教を他の宗教よりも優先する姿勢を露骨に表明しており,例えばイスラム教徒への迫害を公言しているといった指摘である.これらは,「権威主義中国とは対極である,民主主義国インド」という日本国内においてしばしば目に入る構図とは程遠いものだろう.また,この本には,モディ氏に都合が悪い事態が表面化することを避けるためなのか,インド国内において経済統計指標が近年信頼度を大きく下げているという国家運営の根幹を揺るがしかねない事態も発生していることも指摘されている.インドという国の実像を,自らの願望抜きに図る上においてはこの上ない一冊であると思う.
(779文字)

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基礎教養部

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