『絶歌』元少年A (著)
書評
執筆責任者:コバ
1997年、兵庫県神戸市で世間を震撼させる事件が起きた。神戸連続児童殺傷事件である。小学生5人が被害者となり、2人が死亡、2人が重軽傷を負った。そして犯人は中学3年生であった。犯人が中学生であったため実名報道はされず「少年A」が仮名となった。事件の詳細はあまりにも酷いのでここでは差し控えるが、少年Aが事件時残した犯行声明分で酒鬼薔薇聖斗と名乗ったことから酒鬼薔薇聖斗事件と呼ばれることもある。本書はその事件の犯人である少年Aの半生を綴った手記である。本書は彼の生い立ちから事件時、事件後、少年院時代が綴られた第一部と少年院を出た後の社会生活が綴られる第二部からなる二部構成となっている。率直な読み終えた感想として、非常に気分が悪くなった。それはこの二部構成という構成形式も起因している。第一部では彼が次第に狂っていき殺人犯となるまでの経緯が鮮明に描写されている。風景描写は抽象的かつ日常生活では普通使われない言葉で描写されるので非常に読みづらい。一方、人の描写や動物の描写は何年も前の体験を書いたとは思えない異常なほどリアルな描写で綴られる。ショッキングな内容であり読んでいて非常に辛かった。第二部では一転して第一部であったような文章から漂ってくる異常性は鳴りを潜める。むしろ日頃私達が感じ、他者と共有しているような情緒に関する描写が多く綴られている。この点が私が本書を読んで1番困惑した部分である。事件の内容や罪の重さを考えると彼に同情する余地など無いだろう。しかし彼もまた我々と同じ「人間」であるという事実をこの一部と二部の対比の中でまざまざと見せつけられた。そして最後は謝罪の言葉で本書は締め括られる。彼がやったことの取り返しのつかなさ、彼への怒り、言葉の無力さ、それらがそこには虚しく響く。
(750文字)
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