『剣の刃』シャルル・ド・ゴール(著),小野繁(翻訳)
書評
執筆責任者:ほうむたろう
著者シャルル・ド・ゴールは言わずと知れたフランスの軍人、政治家である。本書は1932年陸軍大学での講演を『剣の刃』との名で出版された講演録である。軍事理論書の体を成すが、ド・ゴールが理想とする軍人、軍隊、国家等について抽象的に論じられている。ドゴールが歴史の教科書に名を遺す事績はこの講義録のおよそ10年後である。その時代の分析やリーダーシップ論の自説の片鱗をこの時ある程度完成させていたことを伺える。本書序論冒頭において「現代を象徴するものは不確実性である。」と始まる。これはまさしく今、現代にも通じる問題意識だと思う。当時と比べ、軍事力を大国同士が直接行使する具体的蓋然性は低くなり、軍事力以外の力を巧妙に行使し、そのような力が大衆にはわかりにくい形で浸透している点で状況は異なる。とはいえ、不確実性は確実に高まっている。不確実性が高まるほど、社会集団存続のために「理想的な」リーダーが望まれる風潮がある。では理想的なリーダーとは何であるのか。ド・ゴール彼自身は参考にならないかもしれない。当時ほとんど死に体だったフランスを戦勝国側まで押し上げ、戦後世界でも発言力を保つまでにさせたと言ってもよいド・ゴールの研ぎ澄まされた刃を見るとその存在が稀有なことがわかる。本書は軍人、軍事、戦争から縁遠くなっている現在の日本に生きる我々にとっても示唆に富む内容となっている。昨今流行りの動画切り抜き風に本書一部を引用してみる。「威信とは、情感力、暗示力、感動や共感を与える感化力からなるものであり、人間の根源に由来する才能、つまり、分析を超越した天性の素質に属するものである。」リーダーとしての気質で重要なことは何か。これを考えるとき、ド・ゴールが陸軍士官候補生に語った内容を参考にしてみてはいかがだろうか。
(754文字)
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