『鎮守の森』宮脇昭(著)
書評
執筆責任者:たろ
主張は一貫している。それぞれの地域の主役になる木を中心に根の充満した幼苗を自然の森の掟に従って混植、密植し、新たな森をつくるべき。この根拠に鎮守の森というキーワードが出てくる。著者は1960年前後のドイツ留学時代に潜在自然植生という概念を教わる。この概念は、すべての人間活動を停止したとしたときにその土地の自然環境条件の総和が終局的にどのような植生を支えうるかという理論的な自然植生のことで、これが日本では寺や神社に代表される鎮守の森に存在していることに着目し、日本国内に限らず海外の現地調査も徹底的に行い1970年前後の公害問題や自然の乱開発が深刻化する時期から積極的に本物の森づくりを提唱していく。鎮守の森は高木、亜高木、低木、下草などが共生し多層群落を形成し、最も強い生命力を有し自然災害に対しても防災としても機能する。1923年の関東大震災、1995年の阪神大震災を例に挙げ、鎮守の森がいかに火防木として人命を救ったか、またその後の著作では、2011年の東日本大震災での大津波でも鎮守の森の効果を波砕効果や引き波での沖への流出防止など実例を挙げて説明している。そして今後再び必ずおこるであろう自然災害に対し命を守る本物の森を早期につくろうと訴える。また、日本人は先進国の中でも唯一森を皆殺しにはせず鎮守の森を守り残してきたと述べ、自然を畏怖する神道との関連性を指摘し今後の生き方に警鐘を鳴らす。目に見えるものやお金で換算できるものを進歩とする生き方から目に見えないものを見る努力をすべきと。鎮守の森が持っている現代の科学、医療、宗教などが解明しきれない多様な機能を再考すべきと。私は15年程前より本書で記されている実生からの森づくりを真似ており、いまだに目に見えない何かは発見できていないが、管理も大変ではなく強靭である。興味のある方は実践してみてはいかがだろうか。本物は残るのである。
(797文字)
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