アーユルヴェーダの知恵

『アーユルヴェーダの知恵』高橋和巳(著)

書評
執筆責任者:イヤープラグさざなみ
サンスクリット語で「生命科学」を意味するアーユルヴェーダは、5000年の歴史を持つインド・スリランカの伝統医学である。本書は、西洋医学の教育を受けた精神科医である著者自身のアーユルヴェーダ体験記であり、同時にアーユルヴェーダの入門書でもある。近代西洋医学は医学が病気を治すための科学であり、その治療法は人間が生み出したもので、治療技術は物質を扱うということを前提としてきた。一方東洋医学は自然治癒力を引き出して健康そのものを扱い、身体を超えて精神に注目する医学であるという、西洋医学と対照的なパラダイムを持っている。人間の生理機能を機械に例えた場合、「機械は壊れるものである」という前提のもと、「修理」の思想を持つ西洋医学に対し、アーユルヴェーダでは「正しく設計された機械が壊れるはずがない」という前提のもと、機械の性能を更に高めることに主眼が置かれる。アーユルヴェーダの核となるトリ・ドーシャはサンスクリット語で「3つの濁り」を意味する。その3つとはヴァータ、ピッタ、カパのことであり、これら3つのドーシャの性質と扱い方を述べているのがトリ・ドーシャ理論である。アーユルヴェーダの治療法であるパンチャカルマ、ヨーガ、瞑想や食事療法などは全てこの理論に基づいている。そして、人間の心身を扱うアーユルヴェーダはドーシャ理論を介して大宇宙にまでその体系を発展させる。正直この辺はかなり胡散臭い。東洋医学がスピリチュアルなものとして敬遠されることが多いのも、その理論の内において科学と非科学の境界線が曖昧だからであろう。経験則の積み重ねであるアーユルヴェーダには、現代科学が踏み込めていない領域が多分にある。要素還元論に限界があることは明らかであろう。直接の因果関係は辿れなくとも再現性のある治療法が多く存在する。我々はこれらとどう向き合うべきだろうか。科学の条件と医学のパラダイムについても再考したい。
(799文字)

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基礎教養部

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