新版 動的平衡

『新版 動的平衡: 生命はなぜそこに宿るのか』福岡伸一(著)

書評
執筆責任者:Hiroto
あなたはなぜ自分が自分なのか,考えたことがあるだろうか.自分を自分たらしめるものは何で,自他を区別するものは何か.これは安易な自己分析に走って自分を見つめ直すといった類の話ではなく,より抽象的な,同一性という概念に関する哲学的問いである.ものAとものBが同一であることの定義には様々なアプローチがあるだろう.極力主観を排除したアプローチとして,「構成する分子が全て同一」といった科学的アプローチが考えられる.しかしこの定義を採用した場合,今日のあなたは昨日のあなたとは同一ではなくなってしまう.その本質的理由こそが,生物と無生物を分ける境界となりうるものであり,本書で「動的平衡」と呼ばれる概念である.本書では,生物を静的で無機質な機械的存在とする捉え方を避け,徹底して動的かつ有機的なものとして扱っている.体内時計の話からダイエット,STAP細胞,病原体,ミトコンドリア,アンチエイジング,死,エントロピーにいたるまで,生命に関する様々な話題を動的平衡という観点を通して捉えた本書は,生物学の知識がない一般の読者でも読み物として楽しむことができるだろう.とくに,エントロピーと死について筆者独自の視点で解釈した第9章(新書化に際し追加されたらしい)は,生物がなぜ死に向かっていくのかという疑問への一つの答えを明確に示しており,なかなか興味深い.その一方で,死なんて大層なテーマに興味がないといった方でも,この本から得られる知識で直接的に役に立つものは多くあるように思う.例えば,巷に蔓延るダイエットやアンチエイジングの手法のいくつかは不合理であることが語られる.本書のように生物を動的かつ有機的に捉えることを心がければ,美容グッズや健康食品を選ぶ際のリテラシーをグンと高めてくれることは間違いない.よりよく生きていくためにも,まずは生きるとは何なのか,本書を通して考えてみてはいかがだろうか.
(797文字)

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