経済学の思考軸

『経済学の思考軸』小塩隆士 (著)

書評
執筆責任者:蜆一朗
本書は経済学の入門書という位置づけではあるものの、その基本事項を滔々と説明し続けるわけではない。たとえば税率・夫婦別姓・医療保険・社会保障・といった身近で取っつきやすいテーマを題材としつつ、「経済学」という学問における基本的な姿勢やモノの考え方を紹介するものである。その中心となるのは「効率性」と「公平性」の2つの観点であり、これらを二分するのではなく両輪として考えることによって、経済や政策の見方がずいぶん異なってくる、と筆者は言う。たとえば「生活必需品にも消費税をかけるのはおかしいのではないか」「身体や社会に悪いとされるタバコの販売をやめてはどうか・税率を上げてはどうか」という一見極めて妥当に思える(=公平である)ような仕組みであっても、効率性という別の視点から見ると「多少上がったところで購入を渋らない生活必需品こそ税率を高めるべき」「依存性に立拠した税収の安定性が期待できる・タバコにかける比率の高い低所得者層への配慮は必要である」といった合理的な側面を見出すことができるのである。また、経済学が基本的な信頼を寄せる(がゆえにたびたび批判も受ける)「市場メカニズム」が抱え得る問題点に対しても、やはり効率性と公平性を軸にした考察がなされている。少子化や人口減少の問題が叫ばれて久しく、自分らしくやりたいことをやるのが喜ばしいとされるこの個人主義の時代にあって、将来世代にどこまで思いを馳せることができるのかという観点を持ち出すのは非常に興味深い。全体を通して「理屈としては納得できてもやはり心情的には肯定しがたい」という人情も理解しつつ、かといって決して話を必要以上に簡単にしすぎることもなく、素人の感情的な考えに阿るわけでもなく、専門家としての一定の矜持も保たれている。そのバランス感覚の良さが本書の大きな魅力であり、効率性と公平性がなすトレードオフの姿をわかりやすく示してくれている。
(800文字)

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