いじめの構造-なぜ人が怪物になるのか

『いじめの構造-なぜ人が怪物になるのか』内藤朝雄(著)

書評
執筆責任者:蜆一朗
著者の内藤朝雄氏は, 社会学を専門とし, 本書や『いじめの社会理論』『<いじめ学>の時代』に代表される著作で展開された理論が高く評価されている。本書では、いじめを行う児童生徒の心理や価値観が「群生秩序」や「全能筋書」という観点から分析される。時にこの秩序は道徳的・普遍的な秩序すらをも簡単に侵食し、それに抵抗する者への激烈な嫌悪感から来る攻撃は、時に悲惨な結果を生むほどに執拗なものとなりうる。不全感に満ちた者に力を与え、すべてを救済するかのような気分にさせるいじめの癒し効果と、それをとりまく各人の利害関係とにより、一部のものの悪ノリが合理的となる政治空間が戦略的に形成され、そのなかでより一層の激化が進む。このような暗い現実が、暴力グループの居住地域に滞在し行動を共にした筆者の経験を含む多くの悲惨な事例を交えて解説されていく。その語りぶりは、冷静に淡々と事実を論理的に述べるというよくある学者のイメージとはある意味真反対であり、いじめ問題を「どうにもならない」「仕方がない」で済まそうとせずに真正面から取り組もうとするエネルギーがひしひしと伝わってくる。もし性善説的な視点しか持たない教育者が本書を読めば、事例に現れる子どもたちを表現する言葉の選び方に憤慨するのではないか、と心配になる箇所もあった。また、本書の考察の対象は学校教育に限らず、人間社会の中で普遍的に起こりうる現象としていじめを理解し、そのシステムや構造をなるべく根本的な部分から解析しようとしている。その営みが、人々を怪物ならしめるドロドロした「オトナの社会」を我々にとって生きやすいように変えていくための第一歩となれば、と筆者はいう。教員を志しいじめ問題への理解を深めたいと欲する学生の方に限らず、研究に対する筆者の溢れんばかりのバイタリティが、社会をよりよくしたいという思いを持つすべての方に刺さるであろう一冊となっている。(800文字)

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