41歳の東大生

『41歳の東大生』小川 和人 (著)

書評
執筆責任者:Takuma Kogawa
2022年から2023年にかけて「リスキリング」という言葉が政治で話題になった。この言葉は、好きで勉強するというよりは仕事や社会に役に立つ能力を身につけるという文脈で用いられる。新たに資格を取得するために予備校に通うことはリスキリングのひとつといえるだろう。大学の医学部再受験は人生一発逆転を狙うような側面はあるものの、ある意味でリスキリングといえるだろう。このように考えていくと、大学に再入学して哲学を学ぶことはリスキリングとは呼べないのではないかと思う。本書は、一度大学を卒業して郵便局員として勤める41歳の男性が東京大学を再受験し、キャンパスライフやその後について描いたエッセイである。著者が東京大学を志望したのは、家から最も近く学費の安い国公立大学だからだという。哲学を志望した理由は本書によれば「私が今、知りたい、学びたいと思っているのは、私は今何をしたらよいのか、これから何をして、どう生きればよいのか、それだけである」とのことだ。社会のためなどを考慮せずに自分のために受験勉強を頑張ったその姿勢は尊敬に値する。しかし、東大生でもあり郵便局員でもある著者は、当然のことながら働きながら大学に通うことになる。平日の勤務は難しいとしても、かわりに土日に勤務することでほかの郵便局員とバランスを取らなければならない。休日に資格予備校に通う程度のリスキリングと大学に通い続けるのとでは、周囲への負担のかかり方がまるでちがう。教養課程を終えてインド哲学を修め、卒業した著者はそのまま郵便局員として勤め続けた。私が本書で気になったのは、著者の家族のことである。仕事と学業に忙しいために、妻と二人の子どもがないがしろにされていると感じないかには興味がある。自分の父や夫に、大学に行ってほしいと思う人は多くないだろう。夢を追う父や夫の背中はどう見えるのだろうか。
(779文字)

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基礎教養部

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