この星の絵の具: 一橋大学の木の下で (上)

『この星の絵の具: 一橋大学の木の下で (上)』小林正人 (著)

書評
執筆責任者:YY12
『この星の絵の具』は画家である小林正人氏による自伝小説の全3部作中の第1作目である。小林氏は過去に東京藝術大学などで教授を務めており、キャンバスを張りながら手で描く一風変わったスタイルで知られている。私が小林正人氏を知ったきっかけは東京藝術大学の大学紹介動画だった。如何にも天才芸術家といった風貌で、その作品達は絵画というよりは寧ろオブジェクトに近いものであり、その荒々しくも枠を引き裂いた作品達に私は何故か心惹かれた。もっとこの人について知りたいと思いこの本を手に取ったわけだが、そこには繊細さと人間臭さが誠実に描かれていた。この小説はそんな小林氏の半生を小説形式で描いている。物語では藝大を卒業した後に「空」の絵を描こうとする話やそもそも絵を描くきっかけになる高校の音楽の「せんせい」と出会う話などがなされる。特に「せんせい」との出会いは少年が「画家」として目覚める転機であり非常に印象深いものがある。恋心をよせていた「せんせい」の自宅に呼ばれ、そのヌードを描く機会を得た小林青年は、横たわるあまりに美しい「せんせい」の裸体を目の前にすると、絵の具などというものでは到底その美を表現できずキャンバスに何時間経っても手がかけられなかった。しかし、そんな「白紙の絵」を見たせんせいは「これが小林くんの最初の絵ね」と言う。「美しい」何かをとにかくそこに表現しようとするその姿勢を「せんせい」は見ていたのである。そして、その頃から漠然と画集などを集め、今日に至る様に画家としての道を歩むようになる。その後の成長姿は是非本書で追って欲しい。やはり芸術家というのは感覚的な部分でほとんどの人とはかけ離れたものを有しているため、一読では理解が難しい部分もあるが小林氏は変に取り繕ったりせず「ありのまま」を描いている。きっと今までにない読書経験になるはずである。
(775文字)

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