『「空気」の研究』山本 七平 (著)
書評
執筆責任者:コバ
2007年の流行語大賞に「KY(空気が読めない)」という言葉がノミネートされた。当時私は中学生だったがこの「KY」という言葉に対して「なんだか嫌な言葉だな」という印象を持っていた。そして社会人になった今、この「空気」に取り巻かれて自分は生活しているということを中学生だった当時よりも強く感じている。そんな中、大学時代に読んだことのある本書『「空気」の研究』を無性に読みたくなった。それは私を取り巻いている日々の生活がそうさせたのか、あるいはジェイラボの書評活動がそうさせたのか、理由は定かではないがともあれ私は本書を数年ぶりに読むことにした。本書を大きく分けると『「空気」の研究』『「水=通常性」の研究』「日本的根本主義について」の3つに分けられるのだが、筆者である山本七平氏の太平洋戦争での体験がそれらの論考の一貫したバックグラウンドとして感じられた。人が何かを思考する際、深くまで思考していくためにはそれを突き動かす何かしらのエネルギーがその背後に存在する。何かを深くまで突き詰めて考えるという行為は座椅子に座りながら食後にリラックスしながらできるような行為ではない。思考過程での材料の正しさを都度確認しながら一歩一歩思考を深めていく。時にはさっきまで思考の足場だと思っていた地点が思考を深める中で「実は足場として成立していなかった」ということに気付き大きく後戻りさせられることもある。そうして辿り着いた先に何があるのか。一つ言えることは「考える」という行為と「空気を読む」という行為の間には大きな違いがあるということだ。「思考する」という勇気を持って「空気」という箱庭から一歩踏み出そうとしさえできれば、筆者の意志は本書を読む中で十分に感じれるはずである。
(731文字)
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