西行論

『西行論』吉本隆明 (著)

書評
執筆責任者:西住
西行論は歌人である西行について論じた本である。著者は文芸評論家、詩人、思想家の吉本隆明だ。吉本は親鸞論を書いているくらい浄土仏教に傾倒した人間であり、さらに詩人でもある。仏道に入り、詩作を行った西行と交わるところは多い。西行は平安から鎌倉にかけて活動した武士であり、僧侶であり、歌人である。元々は名門武家の出身で、歌人で、文武に長けた人物として有名だったようだが、若年のある時にいきなり出家したようである。著書ではその出家の理由をいくつか考察しているが、内面からのアプローチと、歴史的なアプローチの両面から追っているのが面白い。内面のアプローチは親友の死を契機に出家した説や、片恋説を取り上げるはするものの、当時最先端だった浄土思想に若者が傾倒していったと考えるのが自然ではないかと結論づける。歴史的なアプローチは、当時の政治的混乱の状況では、武門に属していると必ず合戦に巻き込まれると予感して、宗教と歴史の二択を迫られた結果、宗教を取ることになったのではないかと結論づける。何事も、決定というのは、自分のみに属する要素と、外界から要請される要素があるものである。二つのアプローチを取るのは、分析として適切な方法であると感じた。そして単なる西行論だけではなく、当時の政治的状況についても、一章を割いて説明している。保元の乱あたりについての政治的状況を詳細に知りたい人は、読んでみると面白いかもしれない。最後の章では西行の歌について解説が始まる。西行は新古今の最大の歌人ではあるものの、新古今的な歌人ではなく、むしろその逆であることが、詳しく説明される。その後は西行に特徴的なワードを取り出して、それが持つ意味を詳細に語る。ラストには月が持つ意味を説く。吉本によれば月を単なる風景ではなく、今世と来世を結ぶ形而上的な存在まで高めたのが、西行であるらしい。文芸評論を知りたい方にはおすすめの本である。
(798文字)

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