『笑いの哲学』木村覚(著)
書評
執筆責任者:いいだ
笑いが人生に必要不可欠であることは言うまでもない。笑いは人間の弱さや過ち、どうしようもない運命を受け入れて愛する手助けをし、単調な生活に弾むような彩りを与えてくれる。しかし同時に我々は、笑いという営みを、もっとデリケートかつ真剣に運用すべきであることも気付いている。人は笑いによって救われもするし、傷つきもするからだ。そんな笑いの良し悪しを、単に「センス」や「愛」の能力差で判断するのではなく、著者は ①優越の笑い②不一致の笑い③ユーモアの笑いの3つに分類した。手っ取り早く言えば、①は社会の「掟」に従い人をステレオタイプに閉じ込めることによる笑い、②は「掟」を疑って新たな可能性を発見する驚きの笑い、③は「掟」と距離を取って上手く付き合うための笑いである。つまり社会の規範や基準に真面目に向き合わされる笑い(①)と、不真面目に向き合おうとする笑い(③)が存在する訳だが、その両者の混同こそが笑いを誤解させ、我々を委縮あるいは増長させる原因である。差別(あるいは不謹慎)と取り違えてユーモアを失えば、社会の価値観が硬直してしまう。一方、「いじり」と「いじめ」を履き違える素人や、ネット配信者の炎上は後を絶たない。恐らく現代社会に欠けている笑いの素養とは、「センス」でも「愛」でもなく「リテラシー」である。それは笑わせる者にも、そして笑う者にも強く求められている。笑いを真面目に考えることは決してナンセンスではない。そのように笑いに真剣になることは、社会や人生とどうにか向き合おうとする行いであり、それ自体が我々に活力を与えてくれるはずである。本書は、笑いに対して少しでも興味を覚えているなら誰にでも勧めることができる。西洋哲学から現代のお笑い芸人まで取り扱い、豊富な凡例と共に笑いについて理解を深められる。笑いをもっと心から楽しめるようになる。真面目な人にも不真面目な人にも読んでほしい良書である。
(799文字)
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