弱いつながり 検索ワードを探す旅

『弱いつながり 検索ワードを探す旅』東浩紀(著)

書評
執筆責任者:ゆーろっぷ
ネットは階級(所属、つながり)を強化し固定する道具である。「ネット=浅いつながりを新しく作るためのメディア」という一般常識に照らせば不合理にも思えるこの主張から、本書は始まる。著者の東浩紀氏は批評家・哲学者であるが、本書はそれらに関心のない読者を想定したものである。実際、文体自体は自己啓発書に準ずるやや軽いものだ。しかし、その根底を流れる思想は、自己啓発のそれとは全く異なり、むしろ哲学そのものである。この東氏の哲学は本書の中で幾度となく顕在化するが、その形式としては、ある種の二項対立構造を脱構築し、第三の道を提案するという形をとる。ここでの対立構造とは、本書の主題の一つでもある、強いつながり(=統計的な必然)と弱いつながり(=一回性の偶然)の関係性のことであり、これはより抽象的に「記号とモノの間の関係」と言い換えてもよい。本書の導入である「強いネットと弱いリアル」に関する論は、この関係の具体例として取り上げられたものである。すなわち、初めに述べた一見矛盾して見える主張は、つながり(=絆)の形成において、ネットとリアルが果たす役割の倒錯についての指摘である。本書の中のこうした洞察を読み取るだけでも、ソーシャルメディア時代の生き方を見つめ直す上で重要な視座が得られるであろう。また、本書のもう一つの主題である「検索ワードを探す旅」は、前述の一見相容れぬ二種類の「絆」を繋ぐものであり、この「旅」を通じた「観光客」としての生き方こそ、東氏の提案する第三の道である。そして、重要なことだが、ここで用いられる「旅」「観光客」という言葉は、身体の移動に関わる文字通りの意味であると同時に、哲学的概念でもある。このような思いもよらぬ視点を投げかけてくれるという点で、氏の著作を通読する体験そのものもまた、一種の旅となるはずだ。本書を通じた「旅」から、あなたはどのような検索ワードと巡り合うだろうか。
(800文字)

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基礎教養部

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