『集合知とは何か ネット時代の「知」のゆくえ』西垣 通(著)
書評
執筆責任者:マッキー
“三人寄らば文殊の知恵”とはよく言ったものである。令和の現代、ネットを介して抽出された“文殊の知恵”はWikipediaや口コミサイト等を通して我々の生活に絶大な影響を持っている。コロナ報道を見てもテレビに出てきて偉そうに喋るセンセイの“専門知”よりもツイッターの急上昇ワードに関心を寄せる人は多いのではないだろうか。そうした多くの人間の知を集めて新たに形成される知のことを“集合知”と言うらしい。本書はタイトルの通り“集合知”についての一般向けの入門書である。但し、集合知そのものについて手っ取り早く知識を吸収したい読者にはあまり本書はおすすめできない。本書は“集合”“知”それぞれの解像度を高めた上で、最後にプラモデルのように “集合知”の全体像を組み上げていくという、ちょっとめんどくさい構造となっている。これはいわば西垣氏の知に対する視座を理解するためのガイドツアーであり、1周ぐるっと回って初めて全体像がつかめる仕様になっている。そうした、ちょっと回りくどいツアーを楽しめる余裕のある方にとっては、知的刺激に満ちた良書になるだろうと思う。また、西垣氏の懐の広さも本書の魅力の一つであろうと思う。氏は情報工学の専門家でありながら分野横断的な活動でも知られ、本書においても古代宗教における儀式から現代のネオサイバネティクス論まで考察の幅が極めて広く、集合知に関心がなくても一読の価値はあると思う。また同時に、学者らしく言及の随所に慎重さが垣間見え、ジャーナリスト等の文体に比べ、テンポは悪いが、その分、引用と解釈の境界をはっきり峻別しながら読み進めることができると思う。集合知について俯瞰的に思考の整理をしたい方、あるいは今後、IT技術の進展によって我々の知性はどう変わっていくのかという未来像に関心を寄せる方、そうした方々には是非一度、目を通してみることをおすすめしたい。
(793字)
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