『だから古典は面白い』野口悠紀雄 (著)
書評
執筆責任者:Yujin
「古典とは、長い淘汰の過程をくぐり抜けてきたものであり、現在生産されている本よりも価値が高い」という功利的な考えのもとに、野口悠紀雄氏がいくつかの古典の面白さを語るのが本書『だから古典は面白い』である。例えば、聖書を「説得術が学べる本」としてイエスの説得力の解明をしたり、『マクベス』を「人間操縦法が学べる本」として魔女の人間操作のテクニックを解説している。時代を超えて読まれているのはそこに現代にも通ずる核心があるからで、ビジネス書やノウハウ本を読むよりは古典の方がはるかに効率が良いというわけだ。もちろん効率が良いだけで「古典は面白い」と言い張っているわけではなく、そこに著者の思想や人生の結論を見出したり、あるいは単純に読んでいてワクワクするという点でも、「古典は面白い」と述べている。それは『ファウスト』を紹介している第4章からも読み取れる。第9章では、野口氏のご専門である経済学の観点で「古典がためになる」ことを説明している。生産者は収益性という観点から、古典作品を再生産して売り出すよりも、新しい作品を宣伝して売り出し、成功すれば付加価値が高いものとなるやり方を選ぶ。そうすると、大量のフィルタリングされた情報に晒されることとなり、自分自身の選択の基準を失ってしまう。このような状況から逃れるために、「古典がためになる」というのだ。長い間生き残ってきた古典だからこそ、そこに変化しない核心が存在する。それを学ぶことで自分自身の選択の基準を作り、新しいものの価値を見極めることができる。私はそもそも古典が嫌いで、それは中学・高校で学ぶ日本の古典で面白さを感じられなかったからだ。点数を取るための勉強でしかなく、また「男女の色恋沙汰から学べるものなんかない」と決めつけていた。そして昨年、私は色恋沙汰で大変苦悩した。何事にも、何かを学ぼうとする姿勢の重要さに改めて気付かされた一冊である。
(798文字)
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