私たちはどう学んでいるのか

『私たちはどう学んでいるのか』鈴木宏昭(著)

書評
執筆責任者:ゆーろっぷ
学び・学習を通した変化というものには、無数の形態や段階があるように感じられる。幼児が自力で歩けるようになること、車を運転できるようになること、問題集を解いてテストで結果を出せるようになること、行き詰まっていた問題の解決策を閃くこと……。本書はこうした多種多様な認知的変化に対し、統一的な説明を与えることを主題としている。その前提としてまず、認知的変化と密接な関係にある能力や知識という概念が再検討されるが、ここでは認知科学の研究成果を元にしながら、素朴な能力・知識観とは異なった像を描き出しており、この内容だけでも非常に興味深い。能力については、「力」というメタファーを脳の高次機能に対しても適用してしまうことで、それが内在的で安定的なものであるという印象を作り出しているが、実際の人間の認知機能は文脈や環境に大きく依存することが示されている。また、知識についても人間の頭の中だけで完結するものではなく、環境や状況のリソースを用いて絶えずその場で作り出される事象である。すなわち、人間の知性は環境依存的な「揺らぎ」を持つものであると言える。その前提に立った上で、練習による上達、発達、ひらめきという、見かけ上大きく異なる3種の認知的変化について議論される。これらはしかし、多様な認知的リソースの存在、それらと環境の相互作用による揺らぎ、そしてそれを土台とした知識の創発という観点から一貫した説明ができるものである。一見して全く別の認知的変化にこうした共通点があることに驚かされるが、他方でそれは単一の指標で説明できるものではなく、極めて複雑な過程であることも同時に理解できる。本書は総じて、素朴な学習観について批判的な考察を加えつつ、非常に高い視点から議論を展開している点で優れており、認知科学に興味のある方はもちろん、学びについて理解を深めることを望まれる学習者や教育者にもお勧めしたい一冊である。
(800文字)

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基礎教養部

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