目の見えない人は世界をどう見ているのか

『目の見えない人は世界をどう見ているのか』伊藤亜紗(著)

書評
執筆責任者:コバ
「目の見えない人は世界をどう見ているのか」本書の題名であるこの事について、皆さんは考えたことがあるだろうか。「ものを見る」この動作は視覚により可能となっていると一般的には考えられているが、果たしてそうだろうか。目の見えない人も「ものを見て」いるのではないだろうか。そんな疑問に対して本書は、『実際に筆者が視覚障害者の方々やその関係者に対して行ったインビュー、共に行ったワークショップや日頃の何気ないおしゃべりを元に、晴眼者である筆者がとらえた「世界の別の顔」の姿をまとめた本』として答えてくれる。つまり本書が述べているのは、身体論、それも「見えない」という特殊な体を題材にした身体論なのである。見える人と見えない人の違いを丁寧に確認していく、その試みは他者への関心が根っこになければできない。現代で我々が生きる中で他人が世界をどう「見て」いるか、そこに想いを馳せる余白は自然には発生しない。自分自身が世界をどう「見て」いるか、そしてその視界がどれだけ幸福度の高い世界であるか、そこに終始することとなる。他人が世界をどう「見て」いるかを考えることなどコスパが悪いどころの話ではなく、下手したらマイナスだ。しかし他者への興味、関心、つまり「知りたい」という情動はそういった銭勘定を度外視する。本書は序章を含めると6章立てとなっており、それぞれ・方法・空間・感覚・運動・言葉・ユーモアという視点から各章ごとに論が展開されている。また随所に哲学的な要素も散りばめられており、そういった視点から「ものを見る」という事に関して思考するきっかけも与えてくれる。身体論の本と筆者自身も述べているが、本書の読了感は身体論の本を読んだ後の感覚というよりは、筆者の人柄、姿勢に魅力を感じたというのが私の感想である。私も読書を通じて他人を「見て」いるということに気付かされた。
(776文字)

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基礎教養部

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