『批評理論入門 『フランケンシュタイン』解剖講義』廣野由美子 (著)
書評
執筆責任者:イヤープラグさざなみ
文芸批評や映画批評など、「批評」という言葉を耳にする機会は何度かあったが、それが実際に何をする営みなのかは、はっきりとは知らなかった。しかし、作品の表層を撫でるだけでなく、より深く味わうことへの憧れはずっと胸の内にあった。本書は「小説技法篇」と「批評理論篇」の二部構成で、前半では作者が小説を執筆する際に用いるテクニックが、後半では作品分析に用いられる方法論が平易に解説されている。サブタイトルにもある通り、本編は小説『フランケンシュタイン』の分析を軸に進んでいくが、予備知識は全く必要ないので安心してほしい。書き手のテクニックと批評の理論、またこれら二つを含めた広義の「理論」の羅列にとどまらず、それら全てを実例とともに提示することが、本書では徹底されている。作品を抜きにした理論は空虚である。後半には、作品が道徳的な規範に即しているかに焦点を当てた「道徳的批評」や、作品が作者の人生の反映であるという仮説のもと作品を評価する「伝記的批評」をはじめとし、作品を評する切り口が全部で14個紹介される。一つの作品に対して複数の視点をもって多角的にアプローチするのは難しくとも、一作品一批評くらいだったらできるかも、というのが率直な感想である。絵画鑑賞の入門書を読んだときもそうであったが、一見高尚に見える営みであっても、案外始める際のハードルは低いものだ。小説くらい自由に読ませてくれ、読んで楽しければそれでいいんだ。確かにそうかもしれない。しかし、これだけ複数の読み方がある中でたった一つの読み方に縛られている状態は自由とは程遠い、とも言えるのではないだろうか。今こそ自分の狭い価値観を抜け出し、解釈の可能性がつくりだす広大な世界へ一歩踏み出そう。
(800文字)
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