『伊豆の踊子』川端康成(著)
書評
執筆責任者:バックれ
今回私が紹介するのは教科書でも紹介されているような言わずと知れた名著、伊豆の踊り子である。この小説は著者・川端康成20歳の時の体験が元になっている。川端は元々大地主の本家の長男という生まれであり父も開業医という家庭であったが、祖父が事業に失敗したり幼くして肉親と死別したりと不幸が重なり、最終的に16歳で二人きりで同居していた祖父とも死に別れてしまう。親戚や周りの人に助けられながらも自分が何もお返しをできないという幼少期の経験は、のちに川端自身が多くの若手作家を手助け・援助することに間違いなく影響を与えただろう。川端は学生時代、寄宿舎の同室の男子生徒に精神的な恋愛感情を抱いたことを告白しており、こういった不幸な境遇からどこか自分を無条件に受け入れてくれる母性愛的な存在を求めていたことが窺える。東京大学の前身にあたる第一高等学校へ通っていた20歳の時、「自分の性質が孤児根性で歪んでいると激しい反省を重ね、その息苦しい憂鬱に堪えきれず」同級生に何も告げることなく伊豆へ一人旅にでたのであった…。古典文学というイメージからこの作品の読者層は自然と古典好きになるだろうが、わたしはより若い年代にこそこの本を勧めたい。川端は伊豆旅行以降、それまでとは変わったように、他人と交流を交わしたという。孤独であった川端の他者との距離の測り方はそれこそ自己嫌悪に陥るような不自然なものであったのであろう。しかし川端はあの伊豆旅行で何かをつかんだのだ。この本のテーマは出会いと別れ、そしてそれに伴う精神の成長にある。他人との交流が未発達な若者へ、他者との関係を持つことによって、そしてその獲得した関係を捨てることによってこそ得られるものがあるということを私は伝えたい。特に私同様ある種の恥ずかしさによって他者関係にうまく踏み込めない人には、この本から川端のような心の成長を感じ取ってほしい。
(789文字)
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