かか

『かか』宇佐美りん(著)

書評
執筆責任者:コバ
自己の認識はどこまで行っても自己の認識である。こんな事を言うと「当たり前だろう」という声が返ってきそうではあるが、皆さんも自分にとっての一大事が、他人からは「そんなの大した事じゃない」と言われた経験が一度はあるのではないだろうか。本書は主人公であるうーちゃんの、みっくん(弟)への語りという形式で物語は構成されている。その語りの主な内容というのがこの本の題名でもある「かか」つまり、うーちゃんの母のことである。母親が次第におかしくなっていく、うーちゃんにとってこの事は一大事であるが、従兄弟である明子の母(つまりうーちゃんの伯母)はうーちゃんが小さい頃に亡くなっている。明子からすれば「母親が生きているだけましだろう」と思える。こういった対比はこの物語の中で随所に見受けられる。うーちゃんがツイッターで母親の事で悩んでいる素振りを投稿すればツイッターの仲間達は束の間は心配してくれるものの、数時間もすれば趣味の話題でツイッターのタイムラインは流れていく。しかしそれは逆も然りで、他人の一大事はうーちゃんにとってはやはり「他人事」として認識される。そしてこの本の面白いところは、この構造が我々読者にとっては「他人事ではない」というところである。この小説は「かか弁」というこの小説独自の文体、語彙が使われながら物語が進んでいく。その独自の文体により、物語がうーちゃん自身の言葉で語られているという印象を読者に強く与える。うーちゃんの一大事が我々読者にとっても一大事と思えるか、それとも他人事と思えるか、その判断は是非本書を読み、ご自身で判断していただきたい。そして、この本には救いもある。自己の認識はどこまで行っても自己の認識であるが、人と人とが生きてく中で他人に対して手を差し伸べてくれる人は、確かにいる。世の中捨てたものではないのである。 
(770文字)

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