人間失格

『人間失格』太宰治(著)

書評
執筆責任者:YY12
本書は「恥の多い生涯を送ってきました。」という有名な一文で始まる。物語はこの一文が示す通り、常に鬱々とした雰囲気をまとっている。しかし、本書のテーマである「人間恐怖」、「自己否定」、「異性」は、人間が生きていくうえで避けては通れないものであり、時として強い共感を与える。物語は「自分」の中学生時代、人と相いれず「世間」に恐怖するところから始まる。確かに人というのはいくら考えても分からない。まるで自分一人だけが違うことを考えているかのような不安と恐怖に襲われる。それは主人公たる「自分」も同じだったらしい。彼はこれを「道化」をもって解決していく。すなわち渾身の笑顔で、絶えず「サービス」を行い、内心の恐怖や不信を悟られまいとして周囲に適合しようとする。しばらくはこれで上手くいくのだが、旧制高等学校に入学すると今度はその疲れを癒すかのように「世間」から離れたものへと心が動かされる。すなわち、酒や煙草、左翼思想や娼婦といったものに人間恐怖の一夜の休息を得ていく。そのうち彼は、淫売婦のような世間から後ろ指を指されそうな「日陰」に温かい安心感すら抱くことになる。この時点で私は「道化」と「日陰」という言葉に大変共感し、読む手が止まらなかったことを覚えている。本作品には太宰の人生がそのまま色濃く反映されており、血の通った「日陰で破滅的な人間」が横たわっている。恐らくそれが、私のような者に響いたのだろう。小説の終わりも散々なものだが、当の作者はこの作品を書き上げた一か月後に愛人と共に入水する。勝手な因果関係を結ぶのは悪いが、私にはこの作品に「生きた証を残したい」という遺書のような側面を感じずにはいられない。そこには真正面から自分や自分の人生と向き合った確かな跡がある。文字通り命を投げ打つ必要はないが、真に心を揺さぶるのは真に命や魂をかけて書いたものだけだ。この作品がそうであることは保証する。
(798文字)

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基礎教養部

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