サンショウウオの四十九日

『サンショウウオの四十九日』朝比奈秋 (著)

書評
執筆責任者:あんまん
死とは何か。私とは何か。これらの問いは遥か昔から幾度となく問われてきた。この小説もまたその問いに対して挑戦する。杏と瞬は生まれた時から全てがくっついていた。頭も胸も腹も全てがくっついて一体の人間の身体の中に2つの意識が同居している。結合性双生児として生まれた。ふたりはある日、伯父の勝彦の訃報を聞く。この勝彦も特殊な身体を持って生まれた。生まれてきた赤子の身体には杏と瞬の父である若彦が組み込まれていたのである。臓腑的な関係で生まれたふたりは若彦が身体から取り出され離れ離れになった後でも、透明な一方通行の通路がつながっているような関係性があった。父と伯父以上にくっついて生まれた杏と瞬は伯父の葬式と四十九日を通して自分の存在そして死に対して思いを巡らす。この小説は伯父と父の関係を見ている杏と瞬の関係を見るという二重の構造になっている。姉妹の主観的視点が交差しながら物語が進む形式は新たな読書体験を提示する。第171回の芥川賞の受賞作に選ばれた「サンショウウオの四十九日」の著者、朝比奈秋は芥川賞の贈呈式で「拭い切れないインスピレーションとして物語がくると没頭してしまって、僕が書いているのか、物語が僕を通して書いているのかも区別がつかない」とコメントを残した。自分と物語の境界が混じり合ってわからなくなる。これこそこの本の主題である。この本では特に身体性が強調される。だから葬式であり、四十九日なのである。死体が登場するからである。著者は現役の医師として働いている。医師であるならば死の現場にも立ち会い、また身体性について意識した経験があるはずである。そこで得たであろう視点が真っ直ぐに「サンショウウオの四十九日」には含まれている。意識によって忘れられがちな身体がこの本によって浮かび上がる。
(746文字)

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