短歌のガチャポン

『短歌のガチャポン』穂村弘 (著)

書評
執筆責任者:imadon
『短歌のガチャポン』と題された本書は、現代短歌を先導する歌人、穂村弘が古今東西有名無名、時代を問わず選んだ100首の短歌および著者自身の短い選評が付された歌集となっている。本書を読んでみたら分かることだが、選ばれた歌たちには本当にとりとめがない。何を隠そう私は歌集を読んだのが今回が初めてなので、一般のそれがどういうものか分からないが、ふつうは「夏」とか「出会い」とか一応ジャンルは指定されているものなのだろうか。しかし本書には失恋も喜びも神話も犯罪者も全てが順序もなく並べられている。そのランダム性を、硬貨を入れてレバーを回すと玩具がガラガラと音を立てて落ちてくるあの自動販売機に見立てたのがこの題である。ためしに連続で紹介された3首の短歌を紹介する。『見えるでしょうこれが破壊というものですぽろぽろぽろぽろうるさい涙』『一歳は朝青龍(ドルゴルスレン・ダクワドルジ)の相撲見ており』『家族の誰かが「自首 減刑」で検索をしていたパソコンまだ温かい』どうだろうか。そもそもジャンルが何なのかも分からない歌が無秩序に並べられているのがお分かり頂けると思う。しかし、私はこの無秩序にこそ人間の生の姿が見える気もする。私たちは普段恋をしようと思って恋をしているだろうか。人を憎もうと思って人を憎んでいるだろうか。そうではない。そこにあるのはただただ具体的なものごとで、区別をつけるのは私たちの後付けの都合なのである。1ページめくる度にまったく色の違う歌が目に入るのは驚きもするが、同時に街ゆく人の心の声をまとめて聞いているかのような気分にもなれる。穂村氏の選評も歌人らしくハッとさせられるような切り口ばかりで、正直意味を測りかねる一首も評を読むことでその面白さが分かったりもした¥1600+税と残念ながら硬貨だけでは買えないが、見かけた際には是非手に取って頂きたいと思う。チャリンとコインを入れる気持ちで。
(799文字)

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基礎教養部

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