『発達障害「グレーゾーン」』岡田 尊司 (著)
書評
執筆責任者:imadon
発達障害という語が遍く知られるようになった。医療診断を受けていないのに発達障害を「自称」する人々が問題視されたりもする。こういった人たちが本心から現状の改善を望んでいるのかはともかくとして、少なくとも彼らが自分自身にそのような傾向を認めているのは事実である。では発達障害とは何なのか。臨床場面ではDSM-5という米国発の診断基準がその定義に用いられている。これは特定の精神疾患に顕著に見られる症状を統計的に分析し、その診断に足る条件を一つ一つ明確化したものである。例えば、発達障害のいち形態であるASD(自閉症スペクトラム障害)は、①社会的コミュニケーション障害、②限局された反復的行動の2つの要件を「ともに」満たしたときにそう診断される。片方だけでは診断されない。発達障害の特徴を明確に具えているのに診断されない、それが本書で扱われる「グレーゾーン」の人々である。臨床に携わる精神科医たる筆者は、診断の有無にとらわれていては根底にある問題を見逃しかねないと指摘する。「グレーゾーン」だからといって、実際に診断を受けた人よりも「生きづらさ」の度合いが小さいとは限らない。それは量という一次元的な尺度にによって測れるものではないからである。筆者は、発達障害の診断基準とされる特性を挙げ、豊富な臨床例と研究結果を参照しながらその「質」的な差異を浮き彫りにしていく。スポットライトが当たっているのはあくまでもグレーゾーンの人々であるが、実際に行われているのは彼ら一人ひとりがもつ特性の医学的な分析を通した、診断の境界の「融解」である。そしてそれは同時に、特異な徴候による生きづらさのありのままの描写を意味する。「発達障害とは何か」。グレーゾーンの人々の姿を通して、本書はその答えの輪郭を教えてくれる。
(747文字)
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