『ウクライナ戦争の200日』小泉悠(著)
書評
執筆責任者:Tsubo
現代ではもはや起こらないとされていた国家対国家の正面戦争-ロシアがウクライナに全面侵攻したことによる戦争-が勃発してからちょうど7ヶ月が経った.開戦当時の衝撃は流石に薄れたといえども,未だ戦局に関する報道は行われ続けている.この本はロシアの安全保障が専門である小泉悠東大専任講師と多様な専門領域を持つ7人の識者の対談を通じて歴史の転換点ともいえるこの「ウクライナ戦争」に対する理解を,さまざまな側面から深めようとするものである.例えば,防衛研究所の高橋杉雄氏や元自衛官で小説家の砂川文次氏といった軍事に関する専門家との対談による,具体的な戦局分析から批評家の東浩紀氏,漫画家のヤマザキマリ氏,またドイツ人エッセイストのマライ・メントライン氏と現代中国史の研究者である安田峰俊氏との文化や歴史,国際情勢といった俯瞰的観点からの議論までを本書は扱っている.それらの議論からただ一つだけ言えることは「この戦争は単純な図式のみでは語れない」ということであろう.もちろん,本戦争及びウクライナ国民に突如降りかかった塗炭の苦痛が生じた責任は一方的にロシアにあるのは紛れもない事実である.ただ,ロシアを懲罰し国際社会から締め出しさえすれば全ての問題が解決されるわけではない.なぜプーチンは時局を見誤りウクライナに侵攻したのか,そもそもなぜ未だにロシア国民はプーチンを支持し続けているのか,それを理解しなければこの戦争の解決はなされないであろう.そして,ロシアという国は無視するにはあまりにも巨大すぎる国であり,これからも我々はロシアという国と向き合っていかねばならないのだ.我々は,日本はこの第二次大戦以来最大ともいえる戦争及び激動に対しどう対処すればいいか,そのヒントがこの本にはある.
(737文字)
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