音楽の哲学入門

『音楽の哲学入門』セオドア・グレイシック (著), 源河亨 (翻訳), 木下頌子 (翻訳)

書評
執筆責任者:Naokimen
本書は、各分野の第一線の研究者が一般の読者に向けて現代の研究動向・トピックを解説するという哲学書シリーズのうちの1冊であり、タイトルの通り、音楽について哲学的な観点から考察する入門書となっている。著者のセオドア・グレイシックは音楽美学、芸術の哲学、現代哲学史を専門とするアメリカの第一線の研究者である。本書は4章に分かれており、それぞれ1つのテーマについて考察される。第1章のテーマは、「音楽と音楽でないものの違い」である。鳥の鳴き声は音楽と言えるだろうか?このような身近な例を出発点として何が音楽を音楽としているかについて考察される。第2章では、「音楽鑑賞には一定以上の知識が必要なのか」について考察される。この問題に対する答えは「イェス」である。音楽は芸術であり、芸術は文化を反映したものである。そのため、音楽は文化的慣習の影響を受けるため、背景知識がないと正しく鑑賞することはできない。本章に限らず本書全体でその考え方がベースとなっている。第3章では、音楽と情動について考察される。例えば、「この曲は喜びを表している」とはどういうことか。本章では音楽と情動の表出についてのいくつかの理論が検討される。第4章では、音楽はスピリチュアルな洞察を与えるという考えについて考察される。この考えは昔から認められてきたものであり、多くの人が音楽は神聖なものを啓示する力があると信じている。本章では崇高さという美的性質をキーワードとしてそのような考えについて検討される。音楽の哲学について扱う本は一般的にクラシック音楽や現代音楽を例として取り扱う本が多い。しかし、本書では具体例を挙げる時は必ずクラシック音楽からとポピュラー音楽からの最低2つの例が挙げられる。この点は本書の大きな特徴であり、どんな音楽の趣味を持つ人でも最後まで面白く読めるものとなっている。音楽が好きなすべての人におすすめできる1冊である。
(800文字)

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