『ルポ路上生活』國友 公司 (著)
書評
執筆責任者:Tsubo
路上生活.2020年東京オリンピックやインバウンドの増加を受けた,行政による「浄化作戦」実施によりその数は一昔前に比べ大幅に減少したと言われるが,それでもなお各地には一定数その生活を送る人たちが存在している.そのような路上生活を営む人たちに対して,定住を持つ私たちは様々な視線を投げかける.競争社会に抑圧された被害者か,それとも現代社会において個々人に当然求められるべき義務を果たしていない怠け者か…しかしながら,それらの視線は当然「当事者」の視点には立っていない.つまり,当たり前のことではあるが,実際に路上生活を営む人たちの視点ではないのである.果たして,当事者の視点を抜きにして路上生活を営む人たちの実像を捉えることが出来るのだろうか?この本は,筆者が実際にコロナ禍における東京にて二ヶ月間ほど路上生活を行なった経験を淡々と記述したルポルタージュである.路上生活もある特定の場所一箇所にて行うのではなく,東京都庁下,上野駅前,上野公園,あるいは隅田川河川敷など複数の場所を転々として行なっており,路上生活に関する情報や解像度を向上させる.路上生活において最も懸念事項になると思われるのは何より食事であろう.ただ,筆者は二ヶ月に及ぶ路上生活でわずか一回しか食品を購入しなかった.少なくとも直近の東京においては,様々な主体による炊き出しや食材配布が豊富に存在するためである.また,路上生活というあまり取る人がいない選択肢を選ぶ人たちは,どうしても一癖や二癖ある人が集まってくる.例えば、夢があると語りながら具体的な行動に踏み出せない人、生活保護費を貰っているにも関わらず支給日に全額ギャンブルに溶かしてしまう人。もちろん、公的な支援に繋がれず、孤独に路上生活を営まざるを得ない人もいる。この本は、一言では言いきれないその実像を捉えさせ、自分の視点の矮小さを実感させてくれる。
(788文字)
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