怒りについて

『怒りについて』セネカ(著)兼利琢也(翻訳)

書評
執筆責任者:コバ
「ノウァートゥス、あなたは私に、どうしたら怒りを和らげられるかについて執筆を求めた」この一文からセネカ『怒りについて』は始まる。この一文から分かるように「怒り」についてのセネカの考察を、ノウァートゥスに対して執筆した文章として記していくという形で論は展開されていく。よって、セネカの豊富な語彙、緻密に練られた思考に裏打ちされた内容、論の展開であるものの、どこか語り口調のようでもある文章形式となっている。これにより、人間誰しもが持っている「怒り」という感情を抽象的な次元で論じながらも、どこまで行っても私たちの中に確かに存在するモノであり、他人事ではないということを読者に意識させてくれる。セネカは古代ローマのモラリスト、哲学者であるが、古代ローマといえば権力者の「怒り」を買うことは死を意味するという時代である。現代でもアンガーマネジメントのような怒りをコントロールする方法論はかなりの需要があるくらいなので、古代ローマのように「怒り」が生死に直結するような時代であれば、生死に直結するが故の、緻密に練られた「怒り」に対する処世術が繰り広げられるかと思いきや、確かに処世術的な記述もあるにはあるのだが、一貫して倫理や理性を根底にしながら「怒り」について相対していく。つまり、現代のアンガーマネジメントのように「メリットがあるのであれば、時には怒りを行使することもある」という損得勘定による「怒り」へのアプローチではなく、「怒りは必ず退けなければならないモノである」という根底の思想が最初にあるのだ。よって、この本は「怒り」から身を守るための古代ローマの処世術の本ではない。「怒りは根絶せねばならぬ」という思考、思想を持つ「セネカ」という人間から見た、世界の認識の記述なのである。
(740文字)

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