『「愛」するための哲学』白取春彦 (著)
書評
執筆責任者:Yujin
「愛」とは何か.人類の歴史が始まったその時から今の今までその疑問は繰り返されてきて,そして未だに誰もが納得する明確な答えを出せていない.本書はそんな「愛」について哲学者が哲学し考察する本…だと思って購入したのだが,実はそうではなかった.そもそも著者は哲学者ではなく,しかもこの本は哲学を銘打っておきながら,全く論理的でも哲学的でもない.ただの(と言っては失礼だが)エッセイのようなものだ.第7章では,「愛」を実践するための具体的方法を教えてくれることから,ハウトゥー本でもあるかもしれない.「自分を愛して良く生きよう」といったようなものである.本書の内容についてだが、「愛」について語るパートは,おそらく「愛」に真剣に悩んだことのある人なら誰でも考えたことのあるものばかりである.従って,この本の楽しみ方は,愛と性欲は違うのか、私の愛は汚いのか、どの基準を以てして綺麗/汚いとするのかなど,ありきたりな疑問を再確認させてくれるものであると認識すべきだろう。一方で,哲学的な内容を期待している読者には向いていないと思う.というのも,著者には理想的な「愛」というものがあり,それを主に第2,3章で述べたいのだろうということは伝わるが,それを主張するのに自身の哲学を以て考察するのではなく,“非”理想の「愛」を批判することで際立たせようとしているからだ.いわゆる恋愛ドラマ的な「愛」や,寄付は本当の「愛」ではないなどと言って批判し,だから私の理想の「愛」は素晴らしいのだと言わんばかりの主張である.しかもその批判の仕方も観念的で,自分の理想にそぐわないものをすべて「偽の愛」と決めつけて,自身の理想を正当化しようとする論法である.挙句の果てに「愛の純度」なる謎の尺度を導入して,「愛する」という行為の格付けを行なっている.哲学らしくない主張の仕方にやきもきすることだろう.そんな一冊であった.
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