『実力も運のうち 能力主義は正義か?』マイケル・サンデル(著)
書評
執筆責任者:にしむらもとい
マイケル・サンデルと言えば「正義」の人として記憶している人も多いだろう。しかし、この本は「正義とは何か」について書かれたものではない。あくまで「能力主義とは何か」についての本である。それも、一般論ではなくアメリカ限定の解説である。いかにして民主党がエリート主義に陥り、いかにしてポピュリスト達の不満が爆発したかという成り行きがよくわかる。そして、強い解決策は保留され、「努力と才能による成功者がそれは自分の手柄ではないと認める」世界になることを願いながら、この論は結ばれる。だが、もちろんそんな願望など叶うはずがなく、ここに正義が執行される可能性は薄い。しかし、問題分析の視座は稀有であり見事である。皆さんには、まずそこを読み取ってほしい。本の要約サービスには僕はかなり否定的な立場であるが、この本は特に「まとめ」が意味をなさない。なぜなら、能力主義を理解するには能力が必要だからだ。まとめてもらわなければこの程度の本すら読めない人間には、能力主義を否定することすらできない。ここにも大いなる矛盾がある。能力主義からこぼれた人を擁護できるのは能力主義を勝ち抜いた人だけなのだ。今日の大学入試制度や実態のない金融システムを否定するには「理論」が必要である。しかし、理論を身につけるには能力が要る。どうすれば良いのか。その答えを探す準備段階として、皆さんも「この程度」の内容は、己の力で咀嚼して欲しい。能力主義の乗り越えに頭を悩ませるところまでゆかずとも、多くの皆さんは「能力主義が何故いけないのか」の理論展開をなぞるだけで十分に目から鱗が落ちるだろう。その程度をなぞることができて初めて、スタートラインに立てるのだ。そして、誰も、サンデルすらも触れることができない恐ろしい事実。「能力のない」多くの皆さんには、この本を「読む」ことはできない。僕にできることは、それでも読んで欲しいと願うことだけである。
(800文字)
追加記事 -note-
コメント