『哲学マップ』貫成人(著)
書評
執筆責任者:Hiroto
幹が先か、枝葉が先か。大枠が先か、細部が先か。人が何か新しいことを学ぶときに直面する重大な問題である。大枠を先に概観すると、それだけで満足して細部を埋める動機を失うかもしれない。細部を先に埋めようとすると、些末なところで時間を食って途中で挫折してしまうかもしれない。答えのない、永遠の課題である。今回紹介する『哲学マップ』は、哲学について新しく学ぶ人で、なおかつ大枠を先に概観したい方に向けた本である。本書では、哲学に特有の思考図式を大胆にも4つに分類することで、(西洋)哲学の発生と発展を明快に説明しようと試みる。①「〜とは何か」と問うたプラトン。②「わたし」について考えたデカルト。③図式①と②をある意味で調停したカント。④「問うことそのもの」について問うたニーチェ。この4つの思考図式を主軸に据え、その周辺の哲学をこの4つに紐づけて語る本書の形式は、いささか単純化が過ぎるかもしれないが簡明であることは間違いない。単純化されて見えなくなった複雑な“枝葉“は、各自がこのマップをもとに学んでいけば良い話である。本書の最後には“枝葉“に関する読書案内も詳しくまとめられているため、本書はその後の学びがある前提で取っかかりとして読むことが推奨される。少し話は逸れるが、哲学をすることと哲学史を学ぶこととは、それ自体の営みとしては全く異なる。ここまでの話だと本書は哲学史を学ぶための本というような印象を受けるかもしれない。しかし、本書の最初にはある一人の悩みを持った人間の悩みをどのように解決すべきかといった、個人が営む哲学という行ないにフォーカスが当てられ、本書で述べられる哲学史はあくまでも個人が哲学をする上での手段として紹介されている。現代の哲学研究者は哲学史を学ぶことが目的そのものになりがちであるため、そうでない個人の哲学に寄り添った本書は、悩める現代人の素朴な哲学の助けになることだろう。
(799文字)
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