『量子物理学の発見 ヒッグス粒子の先までの物語』レオン・レーダーマン, クリストファー・ヒル(著) 青木薫(翻訳)
書評
執筆責任者:Naokimen
この世界は一体何からできているのか。物質の最小単位は何だろうか。多くの人が小さい頃に一度は抱いたことがあるであろうこの疑問に答えるべく、人類は長い間探求を続けてきた。その探求をする学問は素粒子物理学と呼ばれている。古くはデモクリトスの原子論に始まり、電子の発見などの様々な大発見を経て、現在は素粒子標準理論と呼ばれる理論まで到達しており、今もなお探求が続けられている。本書は実験物理学者でありノーベル物理学賞受賞者でもあるレーダーマンと、理論物理学者であるヒルが、ヒッグス粒子にフォーカスしながら素粒子物理学の歩みとその展望を描いたものである。ヒッグス粒子は標準理論に現れる粒子のうちで最後に発見された粒子であり、2012年に発見された際には大きな話題となった。質量とは何であろうか。この問いに対してほぼ全ての人は「質量とは物質がどれだけあるかを表したものである」と答えるだろう。日常生活においては、これは疑いようもないことであるが、ずっと小さいものを扱う素粒子物理学の領域に入るとこの考え方は破綻してしまう。実際、光子は質量を持たない粒子であるにもかかわらず、個数を数えることもできるしエネルギーも持っている。ではそのようなものも含めて質量とは何かを説明するにはどうすればいいだろうか。その鍵となるものこそがヒッグス粒子である。実はその機構をきちんと理解するためには物理学科の学部4年生レベルの知識が必要だが、本書はそのような高度な知識がなくてもわかるように書かれている。物理学の一般書は理論家が書くことがほとんどであるが、本書の著者であるレーダーマンは実験家であり、実験物理学者ならではの視点を感じることができるのも本書の特徴である。皆さんも物質の最小単位および質量の起源を探る旅に出かけてみてはいかがだろうか。
(758文字)
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