『物理学とは何だろうか』朝永振一郎(著)
書評
執筆責任者:yuuma
私が紹介する本は,朝永振一郎著『物理学とは何だろうか』である。著者の朝永振一郎は日本の物理学者で,湯川秀樹に次ぐ日本人二人目のノーベル物理学賞受賞者である。一般向けの著述家としても有名な朝永先生によって書かれたこの本は,物理学を歴史的観点から順に取り扱っていき,ケプラーの時代から原子論に至るまで物理学がどのようなモチベーションで発展してきたかを述べている。特に力学と熱力学の発展について詳しく,力学においてはケプラーがケプラーの法則を模索する様子からニュートンがいかにしてニュートン力学を確立させたのかということを,熱力学においてはカルノーによる熱と動力の関係についての考察から,クラウジウスのエントロピー,ケルビンの絶対温度の概念の導入といった経緯について,それらの繋がりを大切にしながらわかりやすく説明している。さらに,ボルツマンやマクスウェルが熱学的な量と力学的な量の関係の考察から熱の分子運動論をどのように完成させていったのかということについても述べられている。すなわち,力学や熱学といった「マクロ」な物理学から,分子や原子といった「ミクロ」な物理学への遷移を鮮やかに描いているのだ。後にその脆さをロシュミットによって鋭く指摘されることになる,初期の分子運動論の「力学と確率論の雑然とした混在」をどのように解決していくのかということや,物理学者間における物理観の違いが理論の発展に与えた影響については特に見どころ満載である。物理学を専門とする人はもちろん楽しめる本だが,数式が可能な限り省かれており物理的な考察や人物に重きを置いているため,物理学や数学の教養が全くない人に対してもお勧めできる一冊である。高校時代に公式を丸暗記させられ,物理学の面白さがわからなかった人も本書を是非読んでみてほしい。丸暗記させられた公式がいかにして作られたのか,また,なぜ大切なのかがわかると思う。
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