『時間は実在するか』入不二 基義 (著)
書評
執筆責任者:Yuta
イギリスの哲学者J・M・E・マクタガートによる「時間の非実在性」についての議論を丁寧に追いかけながら、この問題点を指摘・批判する、そして著者の時間論を提示するというのがこの本の主題である。この本の題名にもある通り「時間は実在するか」という問いに対して「時間の非実在性」つまり「時間は実在しない」ということの証明である。しかし、著者によるとマクタガートの証明は失敗している。第1章でマクタガート本人により参照されなかった他の時間論との比較、第2章、第3章でマクタガートの証明の解説、第4章でマクタガートの証明の検討・批判をした後、第5章で著者自身の見解を提示するという流れである。そもそも「実在とは何か」を考える。ゼノンによる飛ぶ矢のパラドックスに始まり、アリストテレス、アウグスティヌス、ナーガールジュナ、山田孝雄とマクタガートの比較が1章でなされる。伝統的な時間の非実在論の流れをさらい、マクタガートが新しく付け加えたのは何だったのかが提示される。マクタガートの時間論には、A系列、B系列という概念が用いられている。簡単にいうとA系列はある出来事を過去現在未来とラベリングすることによって成立する系列であり、B系列は時間的な前後関係によって成立する固定的な系列のことを指す。それぞれ時間の捉え方であるが、それぞれ独立したものではない。B系列だけでは時間の変化を捉えるのに不十分だから、A系列が時間にとっては必要不可欠という論証をし、その後A系列の矛盾点を突く。そして、時間の非実在性を示すという順番である。著者によるそれぞれの概念や論証の解説に加え、論理的なギャップもちゃんと指摘してあるのが個人的に満足できる点である。時間論に興味のある人には当然お勧めできるし、僕のような哲学的思考にこれまで触れる機会のなかった人にも勧められる。一つの哲学的な思考の追体験をこの本を通してすることができるだろう。
(800文字)
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