鏡の中の物理学

『鏡の中の物理学』朝永振一郎(著)

書評
執筆責任者:Yuta
朝永振一郎は、「超多時間理論」「くりこみ理論」の発見による「量子電磁力学の進展」によって1965年にノーベル物理学賞を受賞した物理学者で、湯川秀樹の同期、仁科芳雄の弟子にあたる。本書は、「鏡の中の物理学」「素粒子は粒子であるか」「光子の裁判」の三部構成になっている。専門的な内容を一般人レベルでも理解できるように書かれている。「鏡の中の物理学」では、物理法則は空間の鏡、時間の鏡のどちらの中の世界でも成り立っていることや、熱の関係する現象は巻き戻しすると奇妙に見えることから、不可逆な現象であることが数式を使わずに明快に書かれており、専門的に物理を勉強している最中の僕からしてもも目から鱗であった。また、朝永の科学観も垣間見ることができた。ところで、物理用語はときどき、専門的な領域以外で用いられることがある。量子力学やら相対性理論やらはその典型例だが、二重スリット実験も一般的に知られた有名な実験である。実験結果から言えることはごく限られたことであるが、専門家ではない一般人の妄想がまるで実験事実のように語られ広まっているのは少し調べれていただければわかるだろう。「素粒子は粒子であるか」「光子の裁判」では、この二重スリット実験に関して正しい理解ができるように順を追って説明してあるのでお勧めである。電子や光子のような粒子は、位置と運動量が同時に定まらないということを、「光子の裁判」では実験事実を紹介しながら論理的に読者に示している。考えられる論の展開を丁寧に塗りつぶしながら裁判が進行していくその様子は、地に足の着いた科学の研究の追体験をしているようであり、楽しかった。物理を専門的に勉強している方はもちろん、興味はあるがなかなか専門的に勉強できない人にも勧められるだろう。何より薄いので数時間で読み終わることができる。
(763文字)

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