『嫌われる勇気』岸見 一郎,古賀 史健(著)
書評
執筆責任者:バックれ
本書はアルフレッド・アドラーが打ち立てたアドラー心理学を、青年と哲人の対話形式の中で青年の悩みを解消する形で読者に紹介するものである。アドラーは、全ての悩みの根源は「対人関係にある」と言い切る。また、対人関係につまずくのも「勇気」の問題であるとして、勇気をいかにして出すためかというアドラーの考えと実践的な教えをこの本は説く。ライターの古賀史健は20代の頃、「何気なく手に取ったのに翌朝からの景色を一変させてしまう」運命の1冊、岸見一郎著の「アドラー心理学入門」に出会った。トラウマの否定・原因論ではなく目的論の採択など、アドラーの師匠筋に当たる、フロイトと逆の考えのアドラーの発想は、大きな衝撃を古賀に与えた。古賀はアドラー心理学に没頭しているうちに、自分が感銘を受けたのは「アドラー心理学」ではなく哲学者岸見一郎のフィルターを通して語られる「岸見式アドラー学」であることに気づき、「岸見式アドラー学」を後世に残すための書籍出版を志すようになるのであった。平易なことばで語られつつも、どこまでも深淵で、世間の常識を根底から覆すようなアンチテーゼの集大成とも言えるアドラー心理学であるため、本書は読者の疑問に丁寧に寄り添うようにという目的もあり、対話形式となっている。しかしこの形式の採択に、実際に古賀が岸見のもとへ足繁く通い彼なりのアドラー学を対話によって習得したという事実は、無視することはできまい。岸見自身も、先駆者の書籍を読み解釈すると言う形式より、ソクラテスが弟子たちへ行なったように、徹底した対話とその中から生まれる偏差を少なくした知識の伝授、実践を通して生まれる疑問によりそうという「カウンセリング」に重きを置いている。本書は、情報を鵜呑みにしつつも翌日には忘れているような情報摂取に対する警鐘をならし、知識の吸収がいかに難しいものであるかを再認識するものでもあるのだ。
(792文字)
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