『子供の宇宙』河合隼雄(著)
書評
執筆責任者:イスツクエ
今回紹介する本は、ユング派臨床心理学者であり児童に対するカウンセリングも行ってきた河合隼雄氏による「子どもの宇宙」である。一般的に宇宙といえば、銀河や星といった天文学上の概念として理解されている。「子どもの宇宙」とはなんだろうか?本書では、著者自身のカウンセリング経験や、症例へのコメンタリー、さらには児童文学の解釈を通して、子どもの宇宙が紐解かれてゆく。章立ては「子どもと〇〇」として、テーマ別に分かれているので興味があるものから読める。〇〇に入るのは、家族、秘密、動物、時空、老人、死、異性という7つだ。ここでは2章の「子どもと秘密」で紹介される児童文学のバーネット著『秘密の花園』のエピソードを紹介する。主人公のメアリは両親を失い、伯父に引き取られるが、とあることをきっかけに、その伯父がかつて閉鎖した庭園を発見してしまう。伯父に隠れて庭園の回復を試みる過程で、メアリは動物や同年代の男の子、また庭師の老人といったさまざまな登場人物の助けを得てゆく。伯父に対する秘密を共有する存在が増えていきながら物語は展開される。この物語では子どもが秘密をもち、親しい人と共有され、最後にはすべての人に開示される経過が見事に描かれている。秘密を持つということは「私だけが知っている」ということなので、これは「私」という存在の独自性を証明することになる。秘密ということがアイデンティティの確立に深くかかわってくるのもこのためである。秘密を誰かに共有することは私が唯一無二の存在であることを確信したい反面、他の人とも同じであるとも思いたいということに対応している。ひとりひとりの子どもの中には無限の広がりと深さをもった宇宙が存在している。大人になるということはその素晴らしい宇宙の存在を少しずつ忘れ去っていく過程なのかもしれない。
(759文字)
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