『スイッチ! ──「変われない」を変える方法』チップ ハース, ダン ハース (著) 千葉敏生(翻訳)
書評
執筆責任者:けろたん
「やる気スイッチ、君のはどこにあるんだろう〜、見つけてあげるよ、君だけのやる気スイッチ〜」。とある塾のコマーシャルソングにこんなものがあった。やるべきことをやるべきだとわかっていながらできないとき、人は自分の「やる気」に問題があると考えてしまう。しかし、それは自分の中の「象」を動かすための一要素でしかない。本書では、感情を象、理性を象使い、環境を道筋になぞらえて、それらにうまくはたらきかけて困難な状況を打開した事例の数々と、そこから導き出された変化を起こすためのテクニックが紹介される。まず最初に挙げられるのは、「ブライトスポット」を発見することである。平たく言えば、先駆者やうまくいっている状況を見つけて真似することだが、問題が大きければ大きいほど頭でっかちな分析に偏りがちな象使いを、具体的で小さな、それゆえ現実的で実行可能な解決策に目を向けさせる効果がある。「象にやる気を与える」技法を使いこなした事例では、やる気というものが時折吹く突風ではなく、変化や行動を起こすことが自分にもできるしそうするのが当然だ、と自己認識する態度とその基盤となるアイデンティティとは切っても切り離せないことがわかる。環境の持つ力の大きさを訴える締めくくりの4章では、おかれた状況を無視して人間性に行動の原因を求める「根本的な帰属の誤り」が紹介されるが、行動できない理由をやる気不足に求めるときの我々はこの過ちを犯しているのかもしれない。せっかくのやる気を空転させないための仕組み作りの重要性を確認させてくれるのは、慈善心はあるが簡略な案内しか持たない学生が慈善心はないが詳細な案内をもった学生よりも寄付の割合が少なかったという実験だ。本書で紹介される数々の成功事例が、あなたにとって変えられないものを変えるためのブライトスポットになるのは間違いない。
(770文字)
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