『本を読めなくなった人のための読書論』若松英輔(著)
書評
執筆責任者:イヤープラグさざなみ
些細な事がきっかけでどうしようもなく落ち込んでしまったり、何もやる気が起きなくなってしまうことがあった。眠くもないのにベッドの上で横になっていると、ただただ時間だけが過ぎていく。体を起こすのも億劫になっているこんなときに、本など読めるわけがない。高校を卒業するまでまともに本に触れてこなかった私は、自分があまりにものを知らないことに焦りを感じていた。より多くの知識を得たい、あの人よりも多くの本を読もう。そういった、知識量を増やすための、冊数を競うような読書を目指すことが私の最初の動機であった。しかし大学に入学後、ふとしたきっかけで文章を書けるようになりたいと思うようになってから私の考えは変わった。読みたくないときは読まなければいいと思えるようになったし、知識よりも「言葉」との出会いを純粋に楽しめるようになったのである。本書で印象に残っている言葉を紹介する。「『読む』ことと『書く』ことは呼吸のような関係です。」息を吐けば、自然と吸えるようになる。私自身何度も経験していることだが、文章を書き始めると本を読みたくなるのである。これまでに食べてきたもので自分の体が出来上がっているように、自分の書く文章に登場する言葉や表現たちは、自分がこれまでに触れてきたものである。文章を書いていると、同じことを他のしかたで表現できないかとか、他の考え方はできないものかとか、自分の中にはない何かを「採集」しにいきたいという気持ちになってくる。そういう動機で本を開けば、知識を得るためであったならば見過ごしていたような、それでいて自分がまさに探していたような言葉に出会うことができるのだ。これからもそうして、書くことと読むことの両輪を回すことで、自分の言語体験を自分のペースで積み重ねていきたい。その中で他者と関わることがあっても、その関係は決して競争ではない。
(776文字)
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