『AIにはできない』栗原 聡 (著)
書評
執筆責任者:YY12
近年、人工知能(AI)は社会全般に多大な影響を及ぼしており、その可能性に関する議論が盛んに行われている。しかし、AIの中身に関して私は正確な理解をしているとは言い難い。よって、本書を取ってみることにした。本書は『AIにはできない 人工知能研究者が正しく伝える限界と可能性』と題して、AIの歴史や可能性、悪影響に関して広く浅く述べている。話題の絶えないChatGPTなどの生成AIに関しても十分に話が出てくる。本書の最大の特徴は、著者がAI研究者としての専門知識を背景に、技術の実態を平易な言葉で解説している点である。例えば、ディープラーニングの仕組みやAIの得意分野について具体例を交えながら説明しており、専門知識がなくても理解できる内容となっている。大雑把なイメージ過ぎて正確性に不安がある部分も多少あるが、私の様な素人には丁度良いはずである。また、本書が興味深いのは、AIの「限界」を語る一方で、その可能性も同時に強調している点である。ただ、AIの「限界」に関する議論では、具体的な倫理的枠組みや規制の提案については掘りが浅く不十分であった。「規制」は法律・政治的な話なので複雑になってしまうのは理解が出来るが、「進歩」と常にセットで語られる話である。AIが社会に浸透する中で、倫理やガバナンスの重要性が高まっている現状を踏まえると、専門家としてもう少し紙面を割いて欲しかった。しかしながら、全体として、この本はAIの性質を理解し、その可能性を現実的に捉えるための貴重なガイドブックであった。技術に対する過度な期待や恐れを克服し、AIとの共存を考えるきっかけを与えてくれる一冊として、多くの読者におすすめできる。
(708文字)
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